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東京地方裁判所 昭和33年(モ)12663号 判決

千葉銀行

事実

債権者株式会社正喜商会は申立の理由として、債権者は、さきに株式会社レインボーに金一千三百五十五万一千円を貸し付け、債務者東京証券金融株式会社は債権者に対し、株式会社レインボーに代つて右貸金債務を弁済することを約したが、昭和三十一年十二月二十五日、債務者はその弁済に代えて、その所有にかかる本件建物の所有権を債権者に譲渡した。

債権者は、右建物の所有権移転登記および明渡請求の本訴を東京地方裁判所に提起したが、債務者およびこれと実質上経営者を同じくする株式会社レインボーは株式会社千葉銀行その他に対し十数億円に達する負債を有するため、何時本件建物を処分し、又は抵当権を設定するかも図り難い状況であつたので、債権者は、東京地方裁判所に本件建物について、いわゆる占有移転禁止および処分禁止の仮処分を申請し、昭和三十三年九月二十九日これを認容する趣旨の仮処分決定を得たが、右決定は相当であり、いまなお維持する必要があると主張した。

債務者東京証券金融株式会社は、債権者の本件仮処分申請は却下するとの判決を求め、その理由として、株式会社レインボーは株式会社千葉銀行から金一千三百五十五万一千円を借り受ける手筈であつたが、同銀行から右会社に対して直接融資することのできない事情があつたので、同銀行は、前記金額の金員を債権者に一応融資し、債権者は右金員をそのまま債務者に貸与するという。いわゆるトンネル融資が行われた結果、形式上右会社が債権者に対して債権者主張の債務を負うに至つたものであり、右債務の真の債権者は千葉銀行であるから、債務者が、本件債権者に対して、本件建物を代物弁済として譲渡するいわれはない。

なお、債務者は、株式会社レインボーとは別個の会社であり、株式会社レインボーもまた千葉銀行に対してその債務に見合う十分な担保を提供している上、本件債務は前述のとおりいわゆるトンネル融資の結果生じたもので、その決済は、真の貸主である千葉銀行との交渉により解決されるべきものであるから、債権者が本件の仮処分を求める必要性はないと主張した。

理由

証拠を綜合すると、

(一)  株式会社レインボーは、昭和三十一年十二月中、その振出にかかる手形の不渡処分を免れる資金として、少なくとも一千三百五十五万一千円を必要としたので、かねて取引のあつた株式会社千葉銀行に融資を懇請したが、同銀行は、同会社に対してそれまでに相当額の融資をしており、これ以上貸付けることは困難な事情にあつたため、債権者の当時の代表取締役片山哲雄は、千葉銀行の古荘頭取の要請に応じて、同会社が平和相互銀行から本件建物を担保として金二千五百万円借り入れられるよう斡旋したが、同年十二月二十五日頃にはその貸付を受け得る見通しもついたので、それまでの間当面必要とする一千三百五十五万一千円は、債権者が千葉銀行から融資を受けた上、本件建物を担保として債権者から同会社に貸与することとなり、同月六日金百七十万円、同月十一日金七百十七万三千円、同月十三日金四百六十七万八千円と、三回に分けて右金員を貸付けたこと、

(二)  この貸付にあたり、同月六日、債権者、債務者および株式会社レインボーの三者間に、「債権者が同会社に貸与する右金銭債務の弁済に代えて、本件建物を債権者に譲渡する、平和相互銀行から二千五百万円を借り入れた場合は、右建物を一千三百五十五万一千円で債務者が買い戻し、この建物に対し、平和相互銀行のために順位一番で債権額二千五百万円の抵当権を設定し、その次順位に、債権者が同会社に対して有する別口の債権約二千万円につき代物弁済の予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記をすること」とする趣旨の契約が成立したこと、

を一応認定することができる。しかして、右一応の認定事実によれば、本件建物の所有権は、昭和三十一年十二月六日債権者に移転したものというべく、債権者は債務者に対し、その明渡請求権および所有権移転登記請求権を有するものということができる。

なお、本件仮処分の必要性は、本件口頭弁論の全趣旨によりこれを推認することができる。

以上本件において疏明された事実関係のもとにおいては、債権者の申請は理由があるということができるから、これを容認してなした昭和三十三年九月二十九日の仮処分決定は相当である。

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